中国の核増強「通常戦力の行使意欲高める」 防衛研報告
防衛省の防衛研究所は24日、中国などの国家戦略を分析した報告書「中国安全保障レポート2024」を公表した。中国の核戦力増強が米国との「相互確証破壊(MAD)」の状況を生み、通常戦力を行使する意欲を高めかねないと指摘した。
報告書は政府の公式見解ではなく研究者が独自に評価したものだ。今回は「中国、ロシア、米国が織りなす新たな戦略環境」との副題で国際秩序の変化の分析を重視した。
MADは核を使えば核で報復できる状況が生まれると、双方が核で破滅する事態を避けようとする状況を指す安全保障の概念だ。冷戦期の米国と旧ソ連はMADによる抑止力が相互に働いたといわれ、核戦争は起きなかった。
報告書は中国の核戦力が米国に近づけば米中もMADの状況になる可能性があると予想した。中国が米国との核戦争は起こらないと読めば台湾海峡や東・南シナ海で通常戦力を使う動機が強まり得ると解説した。
国際秩序の現状維持をめざす米国中心の陣営と現状変更を試みる中国やロシアとの対立は10年ほど加速するとの見通しも示した。
中ロ両国が非民主的な統治体制を維持するとの予測を要因に挙げた。「力による現状変更を実現しやすい方向へ既存の国際秩序を変革することに共通の戦略的利益を有する」と評した。
ウクライナ侵攻に伴う西側陣営とロシアの対立激化で中ロの認識は急速に近づいたともみる。中ロは艦艇の共同航行の増加など軍事協力を深め、グローバルサウスと呼ぶ新興・途上国との協力を強めたと記載した。
ロシアのウクライナ侵攻は長期的には国際秩序を変えず、秩序変更に向けたロシアの力は大幅に下がるとの見込みも打ち出した。
中国については南シナ海や台湾海峡で「漸進的な現状変更を実現しつつある」と説明した。国際秩序を変える意思と能力を持ち得るとみた。
自由で開かれたルールに基づく国際秩序を維持できるかが「将来の国際秩序の行方を決める最大の要因だ」と記述した。中ロの力による一方的な現状変更を抑止するため日米欧などは東南アジアや太平洋島しょ国との協力深化が重要だと説いた。