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[社説]映画作品の自由重んじた司法

出演者が薬物使用で有罪となった映画に対し、助成金を不交付としたのは不当か。そんな論点が争われた訴訟で、最高裁が「不交付は違法」とする判決を出した。

表現の自由を重んじた、妥当な判断といえる。

問題となった映画は2019年公開の「宮本から君へ」。出演者のピエール瀧さんが薬物使用で有罪が確定。独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が、内定していた助成金1000万円を一転して不交付とした。

芸文振は「助成すれば薬物を容認するようなメッセージを出すことになる」として「公益」を理由に不交付は適切だと主張した。

これに対し最高裁は「公益はそもそも抽象的な概念」と指摘。公益が侵害される具体的な危険性がないまま不交付が広がれば、表現行為に萎縮的な影響が及ぶ可能性があり、表現の自由の趣旨に照らしても看過しがたいとした。

その上で、今回の事案では助成によって「薬物容認の態度が一般に広まるという根拠は見当たらない」と結論づけた。文化芸術の自主性に配慮し、不明確な「公益」による行政の安易な介入を戒めた司法判断として評価できる。

表現の自由を侵害しないよう、行政に抑制的な態度が求められるのは当然だ。芸文振は判決を重く受け止めるべきだろう。助成先の選定や評価に絡む基準や審査の透明性向上も欠かせまい。

行政との関係とは別に、不祥事の際に作品自体をどう扱うべきかも、従前から議論になってきた。公開中止といった全面的な自粛も少なくない一方、「作品に罪はない」という声も根強くある。

今回の判決はこうした議論には触れていない。ただ、実態に即して判断するという司法の姿勢は参考になろう。世間の批判を恐れて事なかれの自粛に走るのではなく、その不祥事がどれだけ作品に影響するかを合理的かつ冷静に見極める。そんな姿勢が、結果として文化芸術を守ることにつながるのではないか。

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