[社説]IPEFの存在意義が問われている
経済で他国を揺さぶる中国に対抗する自由な経済圏を築けるか。米国が主導する「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」が、その存在意義を問われている。
IPEFに参加する日米や東南アジアなどの14カ国は米サンフランシスコで首脳会合を開いた。
一定の成果はあった。交渉4分野のうち、脱炭素を促進する「クリーンな経済」と、税逃れの防止をめざす「公正な経済」で実質合意したことだ。
今年5月には「サプライチェーン(供給網)の強化」で妥結している。2022年9月の交渉入りから1年あまりで、3分野の協議がまとまった点は評価したい。
ただ、残る「貿易の円滑化」は難航している。米国と東南アジアなど新興国の間で溝が埋まっていないためだ。
米国は高い水準で労働者の人権を守ったり、環境を保護したりするルールの策定を求めている。新興国側は、そうした厳しい基準は受け入れられないとの立場だ。
参加国間のデータ移動を促すデジタル貿易のルールづくりも、暗礁に乗り上げている。米議会でGAFAMと呼ばれる巨大テック企業を規制する動きが強まり、データ流通の促進はそれに矛盾するとの反発が強まっているためだ。
IPEFは関税の撤廃や削減を交渉の対象としておらず、米国への輸出を増やしたい新興国は利点を感じにくい。雇用や環境で厳しい基準を課されるだけなら、新興国からみてIPEFに参加する魅力は乏しくなる。
デジタル貿易に関しては、米国が脱退した環太平洋経済連携協定(TPP)がデータ流通の詳細なルールを盛り込んでいる。日本やオーストラリア、シンガポールがIPEFに期待するのは、米国を巻き込んだ高度なデジタルルールの確立だ。
IPEFはもともと、TPPから離脱した米国がアジアにかかわり続けるために考え出した枠組みだ。米国が他の参加国をひき付ける努力をしない限り、空中分解の危険が常につきまとう。
17日に閉幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は、米中や新興国の対立が解けず、もはや自由貿易の推進力にはなりにくい。
IPEF、TPPといった枠組みの重要性は増している。日本もこれまで以上に大きな責任を果たさなければならない。