ものづくり、DXでバージョンアップするには?
柿木厚司・JFEホールディングス社長(11月6日)
労働力人口がますます減っていくなかで、国際競争力をどう高めるかが日本の製造業に問われています。生産性を向上し、より高度な製品をミスなくつくっていくことが重要になります。その際に有効なのがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。
2024年度までの4年間の第7次中期経営計画で、1200億円の予算を組んでDXを推進しています。その1つが製鉄の基幹設備である高炉の操業の自動化です。炉内の反応は非常に複雑で熟練技術者の経験に頼っていた面があります。様々なセンサーやカメラでデータを集め、仮想の高炉をデジタル空間につくり、人工知能(AI)で解析してトラブルを未然に防ぐ試みを始めました。技術継承や生産性の向上につながり、製鉄所の他の設備にも導入対象を広げています。
エンジニアリング事業では世界88カ所の廃棄物発電プラントの操業データを、横浜市鶴見区のグローバルリモートセンターでリアルタイムに遠隔監視しています。AIの活用で発電効率も高められます。
鉄鋼事業では日本IBMと共同で、生産設備の復旧支援システムの外販も始めました。過去に起きた故障と対処方法に関する膨大なデータをAIで解析し、発生したトラブルの原因を絞り込み早期復旧につなげるというものです。実際に製鉄の現場で運用してきたノウハウが生かされています。
DXで日本企業は後れを取ったと言われていますが、ものづくりの伝統と蓄積された固有データは日本の強みだと思っています。日本の鉄鋼業は設備の大型化やオートメーション化で先行してきた歴史があります。今後世界の同業他社も設備の老朽化や操業問題に直面するでしょう。そのときに日本企業が持つデータとノウハウを生かせば大きなビジネスになり得ます。
デジタル技術で技術開発や高品質な製品づくりを進化させ、有効な蓄積データを活用できれば今までと違ったものづくりの世界が開けてきます。DXで海外に追いつき追い抜くことは十分可能だと考えています。
DXを成功させるうえでカギになるのは人です。データサイエンティストなど専門人材を増やしていますが、全社員にDXマインドを持ってもらうことが重要になります。
現場の若い社員のアイデアでDXが進んだうれしい事例があります。安全確保のために作業環境などの情報を共有するシステムで、紙に書いていた報告をスマートフォンの音声入力に切り替えました。より確実に危険予知ができ、作業員の負担も軽くなりました。ベテラン社員にはなかなか思いつきませんが、若い人は音声入力がスマホやゲームでは当たり前だといいます。
技能の高い人たちは従来のやり方に縛られてしまうところがあり、設備投資を伴う大きなシステムを求めがちです。コストに成果が見合わないこともあります。デジタルに慣れ親しんだ若い人たちの発想は、それを補完してくれることが多いのではないでしょうか。DXでは柔軟な発想や挑戦心も求められるのだと思います。
そこで皆さんにお聞きします。ものづくりをDXでバージョンアップするには、どんな方法が考えられるでしょうか。日本の製造業をより強くする大胆なアイデアを期待しています。
編集委員から
ドイツは2011年に「インダストリー4・0」と銘打って、官民挙げて製造業のデジタル革命を推し進めてきました。インタビューで柿木社長は「国を挙げて先行されたことについて、製造業の一員として危機感は非常にある」と語っていました。日本企業がDXを急ぐのも、こうした強い危機感が背景にあります。
単にデジタル技術を活用するだけでなく、業務そのものを変革し、事業戦略に結びつけることがDXの要諦だとされています。AIやロボットの進歩は最近めざましいものがあります。効率化など従来の延長線上の改革にとどまらず、ものづくりのあり方が大きく変わる可能性があるでしょう。
製造現場で長年蓄積してきたデータを活用し、他社向けにソリューションビジネスを展開するというJFEグループの取り組みは、製造業のサービス化という観点からも興味深いものです。重厚長大産業がIT(情報技術)企業やスタートアップと組んで新事業に進出するケースが今後ますます増えていくと思います。(編集委員 半沢二喜)
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今回の課題は「ものづくり、DXでバージョンアップするには?」です。400字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは11月14日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、11月27日(月)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/mirai/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。