生成AIで高齢者を救え 生活のリスク低減へ広がる用途
8月下旬、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」などを運営するライフルは不動産仲介の店舗スタッフ向けにAIチャットのベータ版「接客サポートAI by FRIENDLY DOOR」の提供を開始した。高齢者や外国人などの家探しをする際の注意点などをAIチャットで回答する。米オープンAIが開発した生成AI「ChatGPT(チャットGPT)」を活用することで、開発期間を約6週間に抑えた。
「事故物件」リスクを抑制
独り暮らしの高齢者は、賃貸アパートやマンションの入居を断られることがしばしばあるという。高齢者は死亡リスクが相対的に高い。さらに独居であれば自然死だったとしても発見までに時間がかかり、「事故物件」になる可能性があるためだ。
こうした問題に対処するため、ライフルではこれまでも高齢者の仲介の際には必ず見守りサービスに入るようにアドバイスするなど、不動産会社に対し接客に必要な知識をクイズ形式で学べる接客チェックリストを提供してきた。さらに不動産会社の店舗スタッフを対象とした研修も実施し、個別の問い合わせにもライフルの営業マンがメールで回答してきた。
ただ取り組みに賛同する不動産会社の店舗数は8月末には全国で5000を超え、ライフルの100人の営業マンだけですべての問い合わせに対応するには限界も見えてきた。そこで生成AIの活用へと舵(かじ)を切った。
開発期間の6週間でライフルはチェックリストにある知識を生成AIが的確に参照して回答できる仕組みを構築。関連する行政データなどの情報についても最新のものをウェブ検索して参照できるようにした。またこのプログラムによって答えてはいけないことを生成AIが出力しないようにもしている。サービス開始から約1カ月で約400人の利用があったという。
同社のジェネレーティブAIプロダクト開発室で新規事業プロダクトデベロッパースペシャリストを務める有賀和輝氏は「チャットGPTを活用したので、コストをかけずに短期間で開発できた。まだ完成度は低いが、不動産会社の店舗で働く人にどんどん使ってもらい回答の精度を高めていきたい」と話す。
ライフル執行役員で最高技術責任者(CTO)を務める長沢翼氏は「現在、社内の生産性を引き上げるためにタスクフォースを組み、営業やデザイン、人事、開発などの業務でチャットGPTの活用を進めている」とし、今後は他業務への活用も検討する。
介護施設の画像から高齢者の転倒リスクを検出
エクサウィザーズが開発したのは、介護施設や工事現場などの画像から高齢者にとってのリスクを見つけ出す生成AIだ。介護施設内に潜む転倒しやすい場所などを画像から見つけ出し、リスクの可能性について解説する。
現状では、対象となる施設で長く働くベテランの介護士の方が生成AIよりも高い精度でリスクの可能性を見抜くことができるようだ。しかし、今後精度を上げていくという。開発した生成AIは追加の学習が可能で、個別の施設などに特化したリスク検知も可能だ。
「エクサウィザーズは、高齢者が抱えるリスクに関する特殊なデータを多数保有している。それを日本の住宅特有のリスクなどにも活用することもできる」と開発を担当した同社のAI Engineering統括部 AI Frontier部画像システムグループの加藤卓哉氏は説明する。
現在のモデルは一般的な画像データを中心に学習しているおり、高齢者のリスクのみに特化しているわけではないという。加藤氏は「様々な事例での検証結果で、非常に高い精度を発揮している。また、リスクだけでなく、良いところを見つけるというユースケースでも活用できる」と今後の展開への期待を語る。
(日経ビジネス 多田和市)
[日経ビジネス電子版 2023年10月19日の記事を再構成]
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