スタートアップ躍進なるか
新風シリコンバレー WiL共同創業者兼CEO 伊佐山元氏
先月、経済産業省が主催する日米のスタートアップ関係者による交流イベント"MOMENT"で8年ぶりに全米の著名ベンチャーキャピタリスト(VC)が東京に集結した。
日本ベンチャーキャピタル協会の提供するデータによれば、2015年に初めて開催されたこのイベントの当初、日本のベンチャーキャピタルの投資額は2000億円をわずかに超える程度であった。ところが、昨年22年には8774億円に急増し、スタートアップを取り巻く環境は単なる金額の増加だけでなく、創業数の増加やスタートアップ支援政策の充実など大きな変化を遂げた。
15年は日本の首相がスタートアップの聖地シリコンバレーに訪問するという業界に象徴的な出来事があった年だ。日本社会で目立つスタートアップはいくつかあったものの、過去のライブドア事件などの名残か、まだ危なっかしい職業、変わった人ばかりの業界というレッテルも強かった。
その聖地に、首相が立ち寄り、メタやテスラの創業者と交流し、スタンフォード大学で総長と日本の未来や起業家精神について議論して、その普及に貢献したことはスタートアップ関係者にとっては大きなモチベーションアップと地位向上につながった。
23年はスタートアップ五カ年計画の開始年であり、今後の5年間にわたり、日本全体でスタートアップがどれだけ存在感を高めるかが試される時となる。特に政府はスタートアップへの投資額を現在から10倍以上となる10兆円規模への拡大を予定する。
今後の課題として、日本のスタートアップには事業のグローバル化や世界のディープテック分野での技術的優位性の向上が期待されている。これらを実現しなければ、スタートアップは日本の将来の産業をけん引する存在とはなりえない。
メルカリやラクスル、ソラコムなど、日本を代表するスタートアップの海外展開を支援してきたが、多様な文化への適応、良い現地人材の獲得競争、異なる消費者行動への対応といった課題に直面した。
これらの課題に立ち向かうためには、社内の多様性の確保、外国人幹部の積極的な登用、現地での権限委譲が不可欠だ。また、海外の投資家やインフルエンサーからの支援を獲得するために、グローバルに通用する最高財務責任者(CFO)の存在や会社のグローバルな情報発信、ブランディング、コミュニケーション能力の向上も必須になる。
今年のシリコンバレーは、シリコンバレー銀行の破綻やイスラエル危機によるユダヤ系スタートアップコミュニティーへの影響など、混沌とした状況が続いている。
このような危機的な状況において、我々は嵐が過ぎ去るのを待つべきなのか、それとも世界が立ち止まっている間に事業を積極的に展開すべきなのか、スタートアップの特権はあらゆるチャンスを逃さず、危機の中からチャンスを見つけ出すスピードと貪欲さにあるとすれば、今こそ行動の時であると言える。
[日経産業新聞2023年11月21日付]
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