セコム落合氏、柔道「先読み力」で防犯装置を最適提案
セコム東京本部中野支社で専任部長の落合雄太(44)さんはセキュリティーサービス営業のスペシャリストだ。家庭向けから事業者向けまで種類を問わず契約を取り付け、年間の優秀営業員賞は8回と社内トップクラスの成績を誇る。顧客と商品の両方を徹底的に調べ上げて備え、柔道で培った先読み力を生かして提案を作りこみ、顧客を迷わせない姿勢が高い評価を得ている。
東京都中野区や杉並区、新宿区などのエリアを担当する落合さんは家庭向けの警備システムから防犯カメラ、企業向けの入退出管理システムまであらゆる商品を取り扱う。売り切りの監視カメラや入退室管理システムの年間売り上げが約5000万円で、法人向けのセキュリティーシステムは年約60件、家庭向けは年約40件を成約する。
治安や店の顧客層を把握
好成績を支えるのが顧客の需要に寄り添った提案の質の高さだ。2023年7月には世田谷区で開く飲食店でセキュリティーシステムの納入契約を獲得した。1年ほど前に中野区の系列店への飛び込み営業で出会った責任者が世田谷区に出店することになった際、落合さんに連絡を取ったのがきっかけだ。
開店業務で忙しい顧客の事情を考慮し、携帯電話のメッセージ経由でメールアドレスを共有。店舗の情報や図面を送ってもらい、店舗のセキュリティーシステムの見積もりを即座に仕上げた。提案内容が顧客のニーズに刺さり、一発で採用が決まった。
具体的には、設置されたボタンを押すだけで駆けつけを要請できる「パニックボタン」を提案に盛り込んだ。グーグルマップの「ストリートビュー」で周辺の治安の良しあしを確認。顧客の系列店舗に女性従業員や女性客が多いことも考慮して必須だと判断した。
他にも、一般的な人感センサーよりも高額だがカメラ機能のついたセンサーを提案した。なぜセンサーが発報したのかカメラ画像で確認できるため、セコムのスタッフが駆けつけることによる出入りを減らしたい飲食店にとって利点が大きいと考えた。
機器同士の配線や操作端末の設置場所など納入システムの詳細を決めるには、連絡をくれた店舗の責任者だけでなく店舗の設計担当者や店舗スタッフの統括者も交えた打ち合わせが必要だ。そこでオンライン会議も活用し、事前に資料を送って構成を説明し移動の手間を減らした。
商品の種類を問わず安定した営業成績には、小学5年生から始めてセコムの社会人選手としても続けた柔道で培った経験が生かされている。体重による有利・不利が異なる団体戦と個人戦の違いを見据え、毎月の体重調整の数値目標やトレーニングのメニューを逆算で決めていく習慣をつけた。
相手の出方を読んで先に対策を考える手法も役立っている。顧客から聞かれそうな機器の仕様については事前に開発部門に丁寧に連絡を取り、情報を徹底的に集める。大手に納入したシステムのトラブルが発生した際には専門的な話ができる社員を用意する必要があると判断し、想定される質問を作って社内を巻き込み、一緒に考えてもらうことで説明の場に来てもらった。
手書きハガキ年500枚
顧客が欲しいサービスを考え抜く姿勢は営業の駆け出し時代の学びが生きている。前任から引き継いだ老舗の顧客から「うちを見ていない」と叱られた。甘い提案で済ませる姿勢を見透かされていたことに気づき、自身の顧客のために何ができるか一から考え直した。
様々な書籍を読んで試行錯誤に取り組む一環で、取引先に対して手書きで暑中見舞いと年賀状を出し始めた。多い年では一度に500枚に上り、顧客がセキュリティーの相談を考える際のスムーズな指名につながっている。
国内で治安に対する関心が高まるなか、セコムの23年4〜9月期連結決算は売上高が前年同期比6%増の5447億円と同期間として2年連続で最高となった。純利益も過去最高を記録した。落合さんが築いた顧客との信頼関係が迅速な契約につながっている。
(橋本剛志)
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