高齢者の負担と現役の負担の格差が多くなる理由は、厚生労働省が、「取りやすいところから取る」という保険料の徴収方針をとっていることが大きい。取りやすいところとは、つまりは賃金所得を完全に把握されているサラリーマンたちのことだ。賃金所得が高いことは必ずしも裕福であることを意味しない。例えば、年金のかなりの部分は控除されるので、年金生活者は定義上、所得が低くなるが、資産を多く持つ富裕な高齢者も多い。しかし、保険料は主に賃金収入に課されるから、現役層の負担が増して行く。高齢者にもしっかりと負担してもらう為には、賃金所得だけではなく、資産所得や資産額自体からも保険料を徴収してゆく必要があるのではないか。
少子化問題は、ややもすれば、結婚した夫婦の出生率が低下する問題とされがちであり、政府の「異次元の少子化対策」も、結婚した夫婦に対する政策がメインである。しかし、実際には結婚した夫婦の出生率(完結出生子ども数)は現在も1.90(2021年、出生動向基本調査)とかなり高い。静止人口を達成するための合計特殊出生率は2.06程度とされるから、1.90との差はわずかである。実は、2.06と現在の合計特殊出生率1.26の間に大きな差が生じる主因は、若い人々が結婚をしないという「未婚化」にある。少子化対策として急がれるのは、むしろ、結婚対策なのである。婚姻率を上げるための政策に焦点を当て、対策すべきである。
私が規制改革会議や国家戦略特区の委員をしていた頃にも、株式会社の医療機関参入は時折テーマとなったが、まさに岩盤規制で何も動かなかった。ファストドクターのような医療機関を支援する事業から、株式会社の参入を促すことは一案である。もう一つ、株式会社や営利法人が良く機能すると思われる分野が、疾病管理(Disease Management)である。これは、保険者が、加入者の病状改善と医療費削減に目標を定めて、エージェントにその目標達成を委託するものである。エージェントは、患者に様々な働きかけをして、目標を達成すると保険者から成功報酬を得る。政府が進める成果連動型民間委託契約方式(PFS)の一種と言える。
マクロ経済スライドが作られた2004年改正当時、マクロ経済スライドによる年金額の削減幅は、年率0.9%であった。計画では途中1%を超える削減幅の年もあった。ところが、現在、フルにマクロ経済スライドを発動したとしても、0.4%の削減しかできない。デフレのせいで、約20年間もマクロ経済スライドをさぼってきた挙句、この程度の削減幅で、本当に年金財政が維持できるのであろうか。しかも、インフレは外的要因で生じているので、近い将来、いつまたデフレ経済に戻るかもしれない。今のうちに、デフレ下でもマクロ経済スライドを発動できるように法改正し、削減率もきちんと少子化の進展を反映して高くできるようにすべきである。
最近の厚労省のお家芸が、この”高所得者”をターゲットにした保険料引き上げである。医療保険や年金でも、同様の手口が行われているが、問題は、これで終わりではないことである。介護保険も、基本的に賦課方式の財政方式であるから、少子高齢化が続く限り、保険料率が高まる。高所得者の保険料を引き上げても、それは時間稼ぎに過ぎず、結局、低中所得者の保険料も引き上げなければならない。それをきちんと説明しないから、姑息な手段に頼らざるを得なくなるが、問題を先送りすれば、その分、事態が深刻化する。もともと、介護保険は応益負担が原則であった。受益に見合う負担を皆でするということだ。設立時の精神がどんどん失われる一方だ。
学生を他校に移すことも一つの方策であるが、もう一つは、破綻を決断しても、最低4年間は経営が続けられるだけの自己資本を各大学に積ませることである。例えば、今年、破綻をする決断をして学生募集を停止した場合、1年生の数はゼロであるから、2年生から4年生だけの授業をすればよい。翌年は、3年生と4年生だけである。翌々年は4年生だけだ。募集停止から破綻まで4年間はだんだんと経費が減ってゆくから、実質2年分の運営費があればよい。これを常に自己資本として積むよう、各大学に義務を課してはどうか。偏差値の違う大学間の学生移籍は難しいし、距離が離れれば物理的に通うことも難しい。破綻大学から学位を得られるのが一番だ。
国民年金に加入している自営業や農林水産業、フリーランス等の人々は、もともと少ない年金額が、未納期間等があってさらに不足しているが、今後、厚労省が予定通りの年金カット(マクロ経済スライド)を行うと、そこから約3割もの年金削減となる。そこで、追加保険料を5年分払ってもらって、その分、年金額を増やそうというのが、議論されている案である。しかし、国民年金加入者にとっては、今から余分に保険料を払わされるのであれば、将来が不安な公的年金ではなく、個人年金に加入したり、貯金を増やしたいという人もいるだろう。追加保険料を払いたい人だけが払う選択制にしてはどうか。しかし、そもそもこれは公的年金改革と言えるのか。
外国人労働者にとっては「安すぎる円」で賃金をもらう以上、高い賃金をもらわなければ見合わない。実質的に、単純労働の外国人を安く使おうとする技能実習制度は、人権侵害の改善云々の前に、もはやビジネスモデルとして限界に達している。政府は現行の技能実習を手直しして、それに代わる新制度を作ろうとしているが、これは筋の悪い話だ。むしろ、実習生制度を完全に廃止し、適正な賃金を支払って、「労働者」として、正々堂々と外国人を迎え入れる方向を考えるべきではないか。せっかく、特定技能という在留資格を作り、どんどん業種を広げて基準も緩和してきたのに、まだまだ十分に使われているとは言い難い。特定技能をもっと活用すべきだ。
一度税率を下げてしまえばそれが既得権化し、いくら景気が良くなっても、再び税率を引き上げることが政治的に難しくなる。これが、財政当局が税率引き下げに反対する理屈の最たるものである。しかし、期限付きの所得税減税ということが可能なのであれば、なるほど、この減税反対論はクリアできる。今こそ「増税眼鏡」とあだ名される首相のリーダーシップの見せどころである。しかし、もし期限付きの所得税減税が可能なのであれば、期限付きの消費税減税だって理論的には可能となる。所得税減税はそもそも所得税、住民税を払っていなければ意味がなく、低所得者に恩恵が無いという問題がある。いっそのこと、期限付き消費税減税はどうか。(再掲)
制度の是非はともかく、これは重要な社会実験であるから、厚労省は後で政策評価が可能なように、きちんとデータを取っておくべきである。まず、どのような企業が申請し、あるいは申請しなかったのか。そして、実際にその企業のパート賃金をどの程度、上昇させたのか。その結果として、どの程度の労働日数、労働時間増が果たされたのかである。以前、私が行政改革推進会議の構成員として、雇用調整助成金の政策評価を行いたいと強く求めたところ、厚労省は必要なデータをとっていない、とっているものもあるが忙しくて入力が間に合っておらず、政策評価できないという回答であった。新手のサボタージュである。このようなことを許してはならない。
政府ではライドシェア解禁を議論しようとしているが、タクシー業界と国交省、与党タクシー議連がタッグを組んで反対しており、難航が予想されている。解禁されても、タクシー業界に大幅に譲歩した、極めて制限の多い形になるだろう。しかし、Uberがアメリカでライドシェアを初めて今年で14年目である。今更、解禁を議論しても、こうやって、すぐに自動運転の時代が来てしまう。与党や国交省は、むしろ、タクシー業界を衰退産業とみなし、その廃業支援を考え始めた方が良い。データ競争の時代に、タクシー業界の反対で、日本の自動運転導入が遅れることがあってはならない。既得権につぶされてきたライドシェアという失敗を教訓とすべきだ。
ライドシェアの導入の「検討」を「表明」する「調整に入った」とは不思議な表現だ。「導入すべく検討を指示した」とか、「導入を前向きに検討する表明をする」なら、首相のリーダーシップがまだ感じられるが、検討を表明する調整に入ったでは、何も言っていないに等しい。規制改革会議が検討項目に挙げても、問題はその後である。タクシー議連をはじめ、自民党議員の多くが反対する状況では、国交省も部会が通らないことがわかっているので前に進めようがない。また、国交省もこの分野は業界団体べったりなので、そもそも進める気が無い。こういう時こそ、首相のリーダーシップが必要だが、結局、今回の減税のように肩透かしで終わりそうである。
今回は、所得税だろうが、消費税だろうが、給付金を出そうが、選挙目当ての減税だ。筋も通らず、記事のような反対論が出るのはやむを得ない。そこで提案だが、どうしても選挙目当てに減税したいのなら、異次元の少子化対策、年収の壁対策という岸田政権の看板政策に生かすような減税をしてはどうか。すなわち、年金の専業主婦(3号被保険者)優遇を全廃し、年金保険料を支払う制度に改める。専業主婦にとっては増税となるが、共働き、子育て世帯に大規模な税控除と給付金を同時に実施する。専業主婦をやめ、もっと働けば減税、専業主婦を続けても子育てをしていれば減税になるから不満も和らごう。少子化、人手不足、年金財政対策の一石三鳥だ。
四谷大塚のような大手で、性犯罪が行われたことの衝撃はとても大きい。日本版DBSの法案提出が見送られた以上、別の対策を急ぐ必要がある。記事では、「教室にカメラをつけても根本解決にはならず」と言うが、無いよりはマシであり、明らかに抑止力にはなるだろう。何かあった時の証拠にもなる。教室だけではなく、廊下などにもつければよい。民間の塾の中には、自主的にそのような措置を行うところが出てくるかもしれない。また、アメリカの警察官が使っているボディーカメラを塾講師がつけておくというのも、十分に考え得る。カメラの価格も随分安くなった。政府の法的な対応が進まないのであれば、精神論ではなく、ITで解決する道がある。
鈴木亘
学習院大学経済学部 教授
学習院大学経済学部 教授
【注目するニュース分野】社会保障、社会福祉、財政
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