世界に忍び寄る財政危機の脅威 マーティン・ウルフ
国際通貨基金の略称IMFは「It's Mostly Fiscal(ほぼ財政一辺倒)」の頭文字だというジョークを昔からよく耳にした。しかし、近年ではあまりピンとこない時期が続いた。IMFはギリシャやアルゼンチンなど、財政危機に陥った国の財政赤字の垂れ流しを批判したものの、金融危機以降は各国の財政政策について比較的寛容だったためだ。 その状況が変わっている。金利が「長期にわたって低い」世界
迫られる金融緩和への転換 マーティン・ウルフ
果たして中央銀行の政策金利は米国とユーロ圏でピークに達したのだろうか。そうだとすれば、金利はどれくらいのペースで低下するのだろうか。2021年半ばごろから、中銀は金融政策の大幅な引き締めを余儀なくされていた。だが、次にやらなければならないことは不透明だ。中銀関係者が次の計画について何を言おうとも、最終的には実際にその時に起こっていることがすべてを左右する。 もし多くの人が今見込んでいるように(食
トランプ氏再選で変わる世界 マーティン・ウルフ
1919年11月19日、米上院はベルサイユ条約の批准を否決した。これを受け、米国は第1次世界大戦後に合意していた国際秩序の維持から手を引き、意志も手段も持ち合わせない英国とフランスにその仕事を委ねることになった。その後起きた第2次世界大戦が終結すると、米国ははるかに建設的な役割を果たした。今日の世界は、なお多くの点で当時の米国がつくり出したままだ。だが、それはいつまで続くのか。その後の世界情勢は
ガザ衝突がもたらす経済的影響 マーティン・ウルフ
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは10月7日のイスラエルへの奇襲攻撃で何をしようとしたのか。その答えは間違いなく、地域を炎上させることだった。一義的には、我々が目の当たりにしている報復攻撃を誘発し、イスラエルの世界的な評判と地域の平和の見通しに避けがたい影響を与えることが狙いだった。言い換えると、パレスチナの大義のためにガザの人々を殉教者に仕立てあげることだ。悲しいかな、その
中国経済、最大のリスクは政治 マーティン・ウルフ
筆者は最近執筆した3本のコラムで、多くの人が信じている(あるいは望んでいる)ように中国の相対的な国内総生産(GDP)と1人あたりGDPの急速な伸びが止まるかどうかを論じた。 最初のコラムでは中国は依然として非常に貧しいので急成長を遂げる潜在的可能性があると述べた。国際通貨基金(IMF)によれば2022年の中国の1人あたりGDPは世界76位だった。2本目では国内最大の経済問題――持続不可能な債務に
国際開発金融機関、世界改善できる マーティン・ウルフ
「世界は燃えている」。これは20カ国・地域(G20)によって作成を委託され、モロッコのマラケシュで先週公表された国際開発金融機関(MDBs)の強化に関する報告書第2巻の冒頭の文言だ。 2023年の猛暑はこうした言葉を純粋な比喩的表現以上のものにする。我々は今、大きな課題が存在し、そうした課題に対処できないことが明らかな時代に暮らしている。残された時間もますます短くなっている。 6月に公表された報
世界経済、強じん性発揮も動き鈍く マーティン・ウルフ
過去4年間の歳月は3つの巨大なショックをもたらした。新型コロナウイルス、コロナ後の供給の混乱、そしてロシアのウクライナ侵攻とその後のコモディティー(商品)価格急騰だ。この一連の巨大ショックはもう終わったのか。パレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエルに対する激しい攻撃とガザ地区での紛争は、その答えが「ノー」かもしれないことを示唆している。債券市場の最近の混乱も、予測可能性が依然として低いこと
中国は人口減少を克服できるか マーティン・ウルフ
中国の人口動態は同国経済の将来にどれほどの影響力を持つのだろうか。大きな影響は避けられず、実際に中国の経済の先行きを左右する最も重要な要因の一つといえるだろう。1人あたりの労働生産性が上昇する可能性はなお十分にあるが、中国は比較的貧しい国であるため、人口と労働力が減少すれば経済成長は鈍化する。これは中国の未来にとって何を意味するのか。 まず基本的な統計数値をみてみよう。国連のデータによると、中国
中国が「日本化」を回避する方策 マーティン・ウルフ
中国経済が過去や他の国・地域に比べて急速な成長を遂げる時期は終わったのだろうか。先週のコラムではこの点を中心に論じた。その中で筆者は、中国は相対的に貧しく、生活水準の面で世界の富裕国にキャッチアップする余地があると論じた。だが、必ずしも実現するとは限らない。中国経済が持続的な成長を達成するには大きな壁が立ちはだかる。本コラムでは、その壁の中でも特に重要な「消費不足」の問題を論じる。 この20年間
「中国ピーク論」は本当か マーティン・ウルフ
中国経済の未来はどうなるのだろうか。高所得国となり、必然的に世界最大の経済大国として長期君臨するのか。それとも、米国に並ぶ成長を遂げながら「中所得国の罠(わな)」から抜け出せないのだろうか。これは世界経済の未来にとって極めて重要な問いかけであると同時に、世界政治の未来にとっても同様に重要な問題だ。 その意味するところは、非常に簡単な方法で見極められる。国際通貨基金(IMF)によると、2022年の